顧客・価格・投資・人材・撤退に現れるTSUYOMIの痕跡
1.問いの提示
TSUYOMIは、どこに現れるのでしょうか。
TSUYOMIは、経営者の反復的な判断に現れる傾向を読み解くための実務概念です。
しかし、そう言われても、具体的に何を見ればよいのかは分かりにくいかもしれません。
経営者の判断は、頭の中だけにあるものではありません。
実際には、日々の経営行動の中に現れています。
どの顧客を選ぶのか。
どの仕事を断るのか。
価格を守るのか、下げるのか。
どの投資を進めるのか。
誰に任せ、どこで自分が判断するのか。
どの事業を続け、どの事業から撤退するのか。
こうした判断の積み重ねが、会社の形をつくっていきます。
本稿では、経営者の判断が具体的にどこに現れるのかを整理します。
2.通説の整理
経営の分析では、よく次のような項目が見られます。
売上。
利益。
顧客数。
商品構成。
組織図。
資金繰り。
人員数。
市場シェア。
営業活動量。
これらは、経営の状態を把握するために重要な情報です。
しかし、これらの数字や状態だけを見ても、経営者の判断傾向は十分には見えてきません。
たとえば、売上が伸びている会社があります。
一見すると、順調に成長しているように見えます。
しかし、その売上は、どのような判断の結果なのでしょうか。
価格を下げて獲得した売上なのか。
高い専門性を評価する顧客に絞った売上なのか。
採算の低い案件を受け続けた結果なのか。
将来性のある顧客に集中した結果なのか。
同じ売上でも、背後にある判断は異なります。
また、利益率が高い会社があったとしても、その理由は一つではありません。
価格を守っているのか。
顧客を選んでいるのか。
業務範囲を絞っているのか。
少人数で運営しているのか。
外注や仕入れの使い方が上手いのか。
数字は結果を示します。
しかし、TSUYOMIを読むためには、その結果を生んだ判断の繰り返しを見る必要があります。
3.TSUYOMIからの再定義
TSUYOMIは、抽象的な内面にだけ現れるものではありません。
経営者の判断が具体的な経営行動として現れる場所に、TSUYOMIの痕跡があります。
特に重要なのは、次の六つです。
(1) 顧客選択
経営者の判断は、まず顧客選択に現れます。
どの顧客と付き合うのか。
どの顧客を深めるのか。
どの顧客とは距離を置くのか。
顧客を広げる会社もあれば、絞る会社もあります。
価格に敏感な顧客を取りに行く会社もあれば、価値を理解してくれる顧客だけを選ぶ会社もあります。
顧客選択には、経営者の判断傾向が強く現れます。
(2) 価格判断
価格にも、TSUYOMIは現れます。
値下げしてでも受注するのか。
価格を守ってでも顧客を選ぶのか。
短期の売上を優先するのか。
長期の利益率を重視するのか。
価格判断は、経営者の価値判断を映します。
価格を下げることが悪いわけではありません。
価格を守ることが常に正しいわけでもありません。
重要なのは、どのような条件で価格を下げ、どのような条件では守るのかという一貫性です。
(3) 商品・サービスの設計
経営者の判断は、商品やサービスの設計にも現れます。
幅広く提供するのか。
特定領域に絞るのか。
標準化するのか。
個別対応を重視するのか。
高単価化するのか。
量を増やすのか。
商品構成は、単なる商品一覧ではありません。
経営者がどの価値を届けたいのか、どの顧客に向き合いたいのかが反映されています。
(4) 投資判断
投資にも、経営者の判断傾向は現れます。
先に投資して機会を取りに行くのか。
資金余力ができるまで待つのか。
設備に投資するのか。
人に投資するのか。
システムに投資するのか。
広告に投資するのか。
同じ利益が出ていても、投資の方向は会社によって異なります。
投資判断を見ると、経営者が何を将来の軸と考えているのかが見えてきます。
(5) 人材・組織判断
経営者の判断は、人材と組織にも現れます。
誰を採用するのか。
誰に任せるのか。
どこまで任せるのか。
どの判断は社長が握るのか。
管理職を置くのか。
少人数で進めるのか。
中小企業では、社長が抱え続けている判断に、TSUYOMIが現れることがあります。
社長が任せられないのは、社員の能力だけが理由とは限りません。
判断基準が共有されていないために、任せられない場合もあります。
(6) 撤退判断
TSUYOMIは、何を続けるかだけでなく、何をやめるかにも現れます。
どの事業をやめるのか。
どの顧客から離れるのか。
どの仕事を受けないのか。
どの投資を見送るのか。
どの習慣をやめるのか。
撤退判断は、経営者の判断傾向をよく表します。
続ける判断よりも、やめる判断の方が難しいことがあります。
だからこそ、何をやめられないのかを見ることは重要です。
4.実務への含意
TSUYOMIを観測するためには、経営者の考えを抽象的に聞くだけでは不十分です。
実際の判断を具体的に振り返る必要があります。
たとえば、次の問いです。
最近、どの顧客を選んだのか。
どの顧客とは距離を置いたのか。
どの仕事を受け、どの仕事を断ったのか。
どの価格を守り、どの価格を下げたのか。
どの投資を進め、どの投資を見送ったのか。
どの社員に任せ、どの判断を社長が持ち続けたのか。
何をやめたいと思いながら、まだ続けているのか。
このような問いを通じて、判断の履歴が見えてきます。
重要なのは、単発の判断を評価することではありません。
判断の繰り返しを見ることです。
一回値下げしたから、価格に弱い会社だとは言えません。
一回投資を見送ったから、慎重な会社だとは言えません。
一回顧客を断ったから、選別基準が明確だとは言えません。
しかし、同じような判断が何度も繰り返されているなら、そこには傾向があります。
強み経営®では、この反復的な判断傾向を手がかりに、会社の仕組みを見直します。
顧客選択は、営業方針に反映されているか。
価格判断は、見積基準に反映されているか。
商品設計は、経営者が本当に向き合いたい顧客と合っているか。
投資判断は、将来の方向性と合っているか。
社員に任せる判断基準は明確か。
撤退判断は、会社の利益と時間を守っているか。
TSUYOMIを観測するとは、経営者の内面を覗くことではありません。
経営者の具体的な判断履歴から、会社を方向づけている傾向を読み解くことです。
5.未解決点の提示
もっとも、経営者の判断が現れる場所を見れば、すぐにTSUYOMIが分かるわけではありません。
判断には、状況要因も影響します。
市場環境、資金繰り、人材不足、取引先との関係、業界慣行、外部からの要請などによって、経営者は本来の判断傾向とは異なる選択をすることがあります。
たとえば、本当は価格を守りたいが、資金繰りのために値下げする。
本当は顧客を選びたいが、売上確保のために幅広く受ける。
本当は社員に任せたいが、人材が育っていないために社長が抱える。
本当は撤退したいが、取引関係上すぐにはやめられない。
このような判断を、すべてTSUYOMIとして読むのは危険です。
TSUYOMIを読むには、単発の判断ではなく、複数の判断を並べて見る必要があります。
そして、経営者が本当に選びたい方向と、会社の仕組みが実際に動いている方向を区別する必要があります。
ここに、TSUYOMI観測の難しさがあります。
次回は、経営者の判断をどのような視点で読み解くのかを整理します。
特に、選択・排除・違和感・迷いという四つの視点から、TSUYOMIを読む方法を扱います。
次のコラム ➡ 5. 選択・排除・違和感・迷いからTSUYOMIを読む