経営者の判断傾向を読み解く四つの視点
1.問いの提示
TSUYOMIは、どのように読めるのでしょうか。
TSUYOMIは、経営者の反復的な判断に現れる傾向を読み解くための実務概念です。
しかし、経営者の判断傾向は、売上や利益のように数字で直接見えるものではありません。
では、何を手がかりにすればよいのでしょうか。
強み経営®では、TSUYOMIを読むために、経営者の判断を次の四つの視点から確認します。
- 選択
- 排除
- 違和感
- 迷い
経営者が何を選ぶのか。
何を避けるのか。
何に違和感を持つのか。
どこで迷うのか。
この四つを丁寧に見ることで、経営者の反復的な判断傾向が少しずつ見えてきます。
本稿では、選択・排除・違和感・迷いという四つの視点から、TSUYOMIをどう読み解くかを整理します。
2.通説の整理
経営分析では、一般に「結果」を見ることが多くあります。
売上が伸びたか。
利益率が上がったか。
顧客数が増えたか。
社員数が増えたか。
資金繰りが改善したか。
新規事業が成功したか。
これらは重要です。
経営は結果を無視できません。
しかし、結果だけを見ても、経営者の判断傾向は十分には分かりません。
たとえば、利益率が高い会社があるとします。
その理由は、価格が高いからかもしれません。
顧客を絞っているからかもしれません。
業務範囲を限定しているからかもしれません。
人を増やさず、少人数で運営しているからかもしれません。
同じ結果でも、そこに至る判断は異なります。
また、売上が伸びている会社があるとします。
それは、価値ある顧客が増えた結果かもしれません。
一方で、低粗利の仕事を広く受けた結果かもしれません。
結果だけでは、判断の質は見えません。
TSUYOMIを読むためには、結果の前にある判断を見ます。
その判断を読むための入り口が、選択・排除・違和感・迷いです。
3.TSUYOMIからの再定義
TSUYOMIは、経営者の判断の繰り返しに現れる傾向です。
その傾向は、特に次の四つに現れます。
(1) 選択
第一の視点は、選択です。
経営者が何を選んでいるかを見ることです。
どの顧客を選んでいるのか。
どの仕事を受けているのか。
どの市場に向かっているのか。
どの価格帯で勝負しているのか。
どの人材を採用しているのか。
どの投資を進めているのか。
選択には、経営者が何を重要だと考えているかが現れます。
ただし、単発の選択だけを見ても十分ではありません。
重要なのは、何度も繰り返される選択です。
毎回、特定の顧客層を選んでいる。
毎回、粗利率を守る仕事を選んでいる。
毎回、品質を評価してくれる顧客を選んでいる。
毎回、短期の売上よりも長期の関係性を選んでいる。
このような反復に、TSUYOMIの痕跡が現れます。
(2) 排除
第二の視点は、排除です。
何を選ぶかと同じくらい重要なのが、何を選ばないかです。
どの顧客を断っているのか。
どの仕事を受けないのか。
どの価格帯には入らないのか。
どの事業には手を出さないのか。
どの投資を見送るのか。
どの働き方を採用しないのか。
排除には、経営者の境界線が現れます。
多くの中小企業では、選択よりも排除の方が難しい場合があります。
売上がほしい。
顧客を失いたくない。
社員を遊ばせたくない。
借入返済のために仕事を確保したい。
このような事情があると、断るべき仕事を断れなくなります。
しかし、何を断るかを見なければ、経営者の判断傾向は見えてきません。
経営者の判断傾向は、何を選ぶかだけでなく、何を選ばないかにも現れます。
(3) 違和感
第三の視点は、違和感です。
違和感とは、経営者が「何か違う」と感じる反応です。
この顧客とは合わない。
この仕事は利益が出ても続けたくない。
この価格では価値が伝わらない。
この社員の判断には不安がある。
この成長の仕方には無理がある。
この投資は数字上は良く見えるが、しっくりこない。
こうした違和感は、単なる感情ではありません。
経営者の判断基準が、現実の選択肢とぶつかっている可能性があります。
もちろん、違和感が常に正しいとは限りません。
単なる不安や思い込みである場合もあります。
しかし、同じような場面で繰り返し違和感が出るなら、そこにはTSUYOMIの手がかりがあります。
特に重要なのは、経営者が言葉にしにくい違和感です。
「理由はうまく言えないが、この顧客とは合わない」
「数字は悪くないが、この仕事は続けたくない」
「任せたいが、どうしても任せきれない」
こうした違和感を丁寧に扱うことで、判断傾向の輪郭が見えてきます。
(4) 迷い
第四の視点は、迷いです。
迷いは、経営者の判断傾向が揺らぐ場面です。
価格を守るべきか、下げるべきか。
顧客を広げるべきか、絞るべきか。
人を増やすべきか、少人数で進むべきか。
借入して投資するべきか、内部資金で待つべきか。
社員に任せるべきか、社長が持つべきか。
撤退するべきか、続けるべきか。
迷いは、一見すると弱さに見えるかもしれません。
しかし、TSUYOMIを読むうえでは重要な手がかりです。
なぜなら、迷いが生じる場所には、複数の判断基準がぶつかっているからです。
利益を取りたい。
しかし、顧客との関係を壊したくない。
人を増やしたい。
しかし、管理が重くなるのは避けたい。
投資したい。
しかし、資金余力は守りたい。
このような迷いには、経営者が本当に重視しているものが現れます。
迷いを消すことだけが目的ではありません。
迷いを通じて、どの判断基準がぶつかっているのかを確認することが重要です。
4.実務への含意
TSUYOMIを読むためには、経営者に抽象的な質問をするだけでは足りません。
「あなたの強みは何ですか」
「あなたは攻め型ですか、守り型ですか」
「どのような経営スタイルですか」
こうした質問も入口にはなります。
しかし、TSUYOMIを実務で扱うには、具体的な判断を確認する必要があります。
たとえば、次の問いです。
最近、何を選びましたか。
最近、何を断りましたか。
最近、何に違和感を持ちましたか。
最近、どこで迷いましたか。
さらに、その判断を一回だけで終わらせず、複数並べて見ます。
過去3か月で、どのような顧客を選んだか。
どのような仕事を断れなかったか。
どの価格判断で迷ったか。
どの投資判断を見送ったか。
どの社員に任せきれなかったか。
このように判断履歴を並べると、反復している傾向が見えてきます。
たとえば、
- いつも価格を守りたいと思いながら、最後に値下げしている
- 顧客を絞りたいと言いながら、実際には広く受けている
- 社員に任せたいと言いながら、重要判断が社長に戻っている
- 利益率を重視すると言いながら、売上機会を優先している
- 新しい市場に出たいと言いながら、既存顧客から離れられない
このような反復は、TSUYOMIそのものというより、TSUYOMIを読み解くための重要な痕跡です。
強み経営®では、こうした痕跡を手がかりに、会社の仕組みを見直します。
選択は、商品や顧客戦略に反映されているか。
排除は、受注基準や価格基準に反映されているか。
違和感は、放置されず言語化されているか。
迷いは、判断基準の未整備として整理できるか。
TSUYOMIを読むことは、経営者の内面を当てることではありません。
経営者の判断履歴から、会社構造を見直す手がかりを得ることです。
5.未解決点の提示
選択・排除・違和感・迷いは、TSUYOMIを読むための重要な視点です。
しかし、これだけで十分とは言えません。
第一に、判断には状況要因が大きく影響します。
資金繰りが厳しいときには、本来なら断りたい仕事を受けることがあります。
人材が不足しているときには、本来なら任せたい判断を社長が抱えることがあります。
市場が急変したときには、いつもとは違う判断をすることがあります。
このような一時的判断を、TSUYOMIとして読みすぎると誤ります。
第二に、経営者の自己認識と実際の判断履歴が食い違うことがあります。
「自分は顧客を選んでいる」と思っていても、実際には幅広く受けているかもしれません。
「自分は利益率を重視している」と思っていても、実際には売上機会を優先しているかもしれません。
「自分は社員に任せている」と思っていても、実際には重要判断が社長に戻っているかもしれません。
TSUYOMIを読むには、経営者の語りだけでなく、実際の判断履歴を見る必要があります。
第三に、違和感や迷いをどのように扱うかは、まだ検討の余地があります。
違和感は、重要な手がかりである一方、単なる不安や思い込みである可能性もあります。
迷いも、判断基準の衝突を示す場合もあれば、単に情報不足を示す場合もあります。
したがって、TSUYOMIを読むには、単発の発言ではなく、判断の反復と文脈を丁寧に見ることが必要です。
次回は、TSUYOMIはよいものでも悪いものでもない、という点を扱います。
TSUYOMIが成果を生むかどうかは、それ自体の良し悪しではなく、会社の仕組みとの関係で決まります。
次のコラム ➡ 6. TSUYOMIはよいものでも悪いものでもない