TSUYOMI研究コラム 33
1.問いの提示
ダイナミック・ケイパビリティとTSUYOMIの差異を通じて、TSUYOMI概念を精緻化することを目的としています。
前回は、シージングと決断構造の違いを整理しました。本稿では、ダイナミック・ケイパビリティの第三の機能である「トランスフォーミング」に焦点を当てます。
組織や資源を再構成する能力と、前提そのものを再構成する構造は、どのように異なるのでしょうか。
この問いを通じて、資源再構成能力と再編重力の違いを検討します。
2.通説の整理
ダイナミック・ケイパビリティ論におけるトランスフォーミングとは、企業が保有する資源や組織構造を再構成する能力を指します。
技術基盤の転換、事業ポートフォリオの再編、組織設計の見直しなどがその典型例です。
ここで焦点となるのは、
- 既存資源をどのように組み替えるか
- 不要な資源をいかに整理するか
- 新たな資源をどのように統合するか
といった実行能力です。
変化環境の中で持続的に競争するためには、資源配置を柔軟に変えられることが重要であると整理されます。
理論の中心は、再構成を可能にする能力です。
3.TSUYOMIからの再定義
TSUYOMIは、現時点では判断生成構造として整理しています。
この視点から見ると、資源再構成の前段階にあるものに注目する必要があります。
それは、再構成の必要性をどのように認識するのかという前提です。
同じ環境変化に直面しても、ある企業は既存資源を守ろうとします。
別の企業は積極的に構造転換を選びます。
ここには、資源再構成能力とは別の水準が存在すると考えられます。
TSUYOMIは、その水準を「再編重力」として暫定的に整理します。
再編重力とは、前提を維持する方向に傾くのか、それとも前提を書き換える方向に傾くのかという、判断の傾向です。
整理すると、
- トランスフォーミングは、資源を再構成する能力です。
- 再編重力は、前提を再構成する方向へ判断が傾く構造です。
前者は資源の配置に関わります。
後者は、その配置を決める認識の前提に関わります。
両者は連続しているように見えますが、説明対象は異なる水準にあります。
4.実務への含意
実務では、「組織を変える」「事業を転換する」といった具体的な再編が注目されます。
しかし、再編が起こる前には、「このままではいけない」という前提の変化が存在します。
SmallBizでは、経営者の経験や成功体験が前提を強く固定化することがあります。
再構成能力を備えていても、前提が維持され続ける場合、再編は選択されません。
したがって、実務においては、資源再構成能力の有無だけでなく、前提再構成の方向へ傾く構造を理解することが重要になります。
再編重力を自覚することが、変化を持続的に考えるための条件となる場合があります。
5.未解決点の提示
本稿では、トランスフォーミングと再編重力の違いを、水準の違いとして整理しました。
しかし、いくつかの問いが残ります。
- 再編重力はどのように形成されるのでしょうか。
- 成功したトランスフォーミングは、再編重力を強化するのでしょうか。
- 再編重力は意識的に調整できるのでしょうか。
これらは今後の検討課題です。
次回は、ダイナミック・ケイパビリティが前提とする企業観と、TSUYOMIが前提とする企業観の違いを検討します。