TSUYOMI研究コラム 34
1.問いの提示
ダイナミック・ケイパビリティとTSUYOMIの差異を通じて、TSUYOMI概念を精緻化することを目的としています。
前回は、トランスフォーミングと再編重力の違いを整理しました。本稿では、両概念の背後にある企業観の違いを検討します。
企業は「能力の束」なのでしょうか。それとも「判断の地層」なのでしょうか。
この問いを通じて、能力概念と構造概念の前提の違いを明らかにします。
2.通説の整理
ダイナミック・ケイパビリティ論は、企業を能力の体系として理解します。
企業は資源を保有し、それを活用するルーティンやプロセスを持ち、それらを再構成する能力を備える存在であると整理されます。
この枠組みにおいては、企業は「何ができるか」という観点から把握されます。
能力は蓄積され、組み合わされ、強化されます。
環境変化への適応は、その能力の再編として説明されます。
整理すると、企業は能力の集合体として理解されていると考えられます。
3.TSUYOMIからの再定義
これに対して、TSUYOMIは、現時点では判断生成構造として整理しています。
この立場では、企業は単なる能力の集合ではありません。
むしろ、過去の判断の蓄積によって形成された「地層」として理解されます。
ある判断が繰り返されると、それは経験として蓄積されます。
成功体験は確信を強め、失敗体験は回避傾向を強めます。
その結果、特定の方向に判断が傾きやすくなります。
TSUYOMIは、この蓄積された判断の傾向を、暫定的に「地層」として捉えます。
整理すると、
- ダイナミック・ケイパビリティは、企業を能力の束として理解します。
- TSUYOMIは、企業を判断の地層として理解します。
能力は行為の可能性を示します。
地層は、行為が選択される傾向を示します。
両者は無関係ではありませんが、存在論的な焦点は異なる水準にあります。
4.実務への含意
実務では、能力強化が重要視されます。
人材育成、プロセス改善、技術投資などは、能力の観点から説明されます。
しかし、同じ能力を備えていても、企業によって選択する戦略は異なります。
SmallBizでは、経営者の過去の経験や価値観が強く反映されます。
その結果、能力の活用方向に偏りが生じます。
能力を高めるだけでは、判断の地層は変わらない場合があります。
したがって、実務においては、能力の設計と同時に、判断の地層を意識的に検討することが必要になると考えられます。
5.未解決点の提示
本稿では、企業観の違いを「能力の束」と「判断の地層」という対比で整理しました。
しかし、次の問いが残ります。
- 地層はどのように形成されるのでしょうか。
- 地層は能力の反復によって強化されるのでしょうか。
- 地層はどのような契機によって変化するのでしょうか。
これらは今後の検討課題です。
次回は、能力概念が説明できる範囲と、その限界について検討します。