TSUYOMI研究コラム 28
1.問いの提示
ダイナミック・ケイパビリティとTSUYOMIの差異を通じて、TSUYOMI概念を精緻化することを目的とします。
そのためには、まずダイナミック・ケイパビリティの核心命題を正確に理解する必要があります。
本稿の問いは次のとおりです。
- ダイナミック・ケイパビリティは、企業の競争優位をどのように説明しているのでしょうか。
ここでは評価や比較を行わず、理論の構造を整理します。
2.通説の整理
ダイナミック・ケイパビリティ論は、主にデイヴィッド・ティースによって理論化されました。
この理論の出発点は、環境変化の激しい状況において、なぜ一部の企業は持続的な競争優位を維持できるのかという問いです。
従来の資源ベース理論は、希少で模倣困難な資源の保有を優位の源泉としました。しかし、技術や市場が急速に変化する環境では、資源そのものよりも、資源を再構成する能力が重要になると考えられます。
ここで提示される核心命題は、次のように整理できます。
- 競争優位は、資源の保有そのものからではなく、資源を感知し、捉え、再構成する能力から生まれる。
この能力は、一般に次の三機能で説明されます。
- 機会や脅威を感知すること(sensing)
- 機会を捉え資源を投入すること(seizing)
- 組織や資源を再構成すること(transforming)
この三機能は、企業が環境変化に適応するための動的能力として位置づけられます。
整理すると、ダイナミック・ケイパビリティ論の核心は、
- 企業が持続的優位を確保できるかどうかは、再編能力の質に依存する
という命題にあります。
3.TSUYOMIからの再定義
ここで、TSUYOMIの立場から一つの確認を行います。
ダイナミック・ケイパビリティは、「何ができるか」という能力の水準を中心に据えています。
能力が存在すれば、変化への対応が可能になるという前提が置かれています。
しかし、その能力がどのように方向づけられるのか、何を機会として意味づけるのかという水準は、理論の中心には置かれていません。
TSUYOMIは、現時点では判断生成構造として整理しています。
したがって、能力が発動される前提となる判断の傾向に関心を持ちます。
この違いは、能力水準と判断水準の違いとして整理できる可能性があります。
現時点では、ダイナミック・ケイパビリティが行為可能性を説明する理論であることを確認するにとどめます。
4.実務への含意
実務においては、再編能力の強化が重視されます。
市場分析、組織設計、資源配分の見直しなどは、ダイナミック・ケイパビリティの枠組みで理解することが可能です。
特に大規模組織では、能力の体系化と再編のプロセス設計が重要になります。
一方で、SmallBizでは、能力の問題と同時に、経営者の判断が強く影響します。
能力が存在していても、その能力がどの方向に使われるのかは別の問題です。
この点は、今後の検討課題となります。
5.未解決点の提示
本稿では、ダイナミック・ケイパビリティの核心命題を整理しました。
しかし、次の問いが残ります。
- 再編能力はどのように形成されるのでしょうか。
- 能力と意思決定はどのような関係にあるのでしょうか。
- 能力の存在は、どの程度まで競争優位を保証するのでしょうか。
これらの問いを踏まえ、次回は、ダイナミック・ケイパビリティにおける意思決定の位置づけを検討します。