TSUYOMI研究コラム 29
1.問いの提示
前回は、ダイナミック・ケイパビリティの核心命題を整理しました。
その命題は、競争優位は資源そのものではなく、資源を再構成する能力から生まれるというものでした。
本稿では、次の問いを検討します。
ダイナミック・ケイパビリティは、意思決定をどのように扱っているのでしょうか。
能力が発動される場面には、必ず意思決定が存在します。しかし、その意思決定は理論の中心に位置づけられているのでしょうか。
2.通説の整理
ダイナミック・ケイパビリティ論では、企業は
- 環境を感知し
- 機会を捉え
- 組織を再構成する
と整理されます。
ここには意思決定が含まれているように見えます。しかし、理論の焦点はあくまで「能力」にあります。すなわち、
- どれだけ迅速に感知できるか
- どれだけ的確に資源を配分できるか
- どれだけ効果的に再編できるか
といった行為の実行可能性が中心となります。
意思決定そのものの生成過程や、判断がどのような前提から生まれるのかについては、必ずしも詳細に扱われていません。
意思決定は、能力が発動されるプロセスの一部として前提化されていると整理できます。
3.TSUYOMIからの再定義
TSUYOMIは、現時点では判断生成構造として整理しています。
この立場から見ると、意思決定は能力の発動点ではなく、分析の中心に位置づけられます。
能力は「できるかどうか」を示します。しかし、意思決定は「何を選ぶか」を決めます。
同じ能力を持つ企業でも、異なる選択を行う場合があります。
この差異は、能力の有無ではなく、判断の偏りから生まれる可能性があります。
整理すると、
- ダイナミック・ケイパビリティは、能力の水準を中心に据えます。
- TSUYOMIは、意思決定の生成水準を中心に据えます。
能力があっても選ばれない行為があります。この現象を理解するためには、判断構造への視点が必要になります。
4.実務への含意
実務では、「能力不足」が変化の失敗原因として語られることがあります。
しかし、実際には能力が存在していても、選択されない場合があります。
SmallBizでは、経営者の意思決定が組織の方向を直接規定します。
能力の議論だけでは、なぜその選択がなされたのかを十分に説明できない場合があります。
したがって、実務においては、能力の設計と同時に、意思決定の前提を検討する必要があります。
5.未解決点の提示
本稿では、ダイナミック・ケイパビリティにおける意思決定の位置づけを整理しました。
しかし、次の問いが残ります。
- 能力と意思決定はどのように結びついているのでしょうか。
- 意思決定は能力の結果なのでしょうか。
- それとも、能力を方向づける構造が存在するのでしょうか。
これらは今後の検討課題です。
次回は、能力の主体は誰なのかという問いを検討します。