TSUYOMI研究コラム 36

1.問いの提示

ダイナミック・ケイパビリティとTSUYOMIの差異を通じて、TSUYOMI概念を精緻化することを目的としています。

前回は、能力概念が説明できる範囲と、その限界について整理しました。

本稿では、次の問いを検討します。

能力は、なぜときに硬直を生むのでしょうか。

変化に適応するための能力が、逆に変化を阻害するように見える現象があります。この点を検討することが、能力概念と構造概念の違いをより明確にする手がかりになると考えます。

2.通説の整理

ダイナミック・ケイパビリティ論では、能力は環境変化への適応を可能にする資源として理解されます。

センシング、シージング、トランスフォーミングという機能は、変化に対応するための積極的な行為能力です。

この枠組みにおいては、能力は柔軟性を生むものと整理されます。

すなわち、能力が高いほど、再編は円滑に進み、競争優位が持続すると考えられます。

しかし、実務においては、能力の高さが必ずしも柔軟性につながらない場合があります。

高度な専門性や成功した事業モデルが、逆に変化への抵抗を強めることがあります。

この現象は、能力概念だけでは十分に説明しきれない側面を含んでいるように見えます。

3.TSUYOMIからの再定義

TSUYOMIは、現時点では判断生成構造として整理しています。

この立場に立つと、能力が繰り返し発動されることによって、特定の判断傾向が強化される可能性に注目します。

成功体験が蓄積されると、その判断は正当化され、再び同じ方向の選択が行われやすくなります。

このとき、能力そのものが問題なのではなく、能力が発動される方向を固定化する判断の偏りが強化されていると考えられます。

整理すると、

  • 能力は行為の可能性を拡張します。
  • しかし、その反復は判断の偏りを強化する場合があります。

TSUYOMIは、この偏りの蓄積を地層として理解します。

能力が高いほど、その能力に適合する判断が選択されやすくなり、結果として他の選択肢が見えにくくなることがあります。

この現象を、ここでは暫定的に「能力と硬直」の関係として整理します。

4.実務への含意

実務では、成功体験が組織の自信を支えます。

しかし、その成功体験が判断の基準を固定化する場合、環境変化に対する感度は低下する可能性があります。

SmallBizでは、経営者の経験が組織全体に直接反映されます。

能力の高さが強みとして機能する一方で、その強みが別の選択肢を排除する方向に作用する場合もあります。

したがって、能力を高める取り組みと同時に、その能力がどのような判断傾向を強化しているのかを検討する必要があります。

能力と硬直の関係を自覚することが、再編を考える出発点になると考えられます。

5.未解決点の提示

本稿では、能力の反復が判断の偏りを強化し、硬直を生む可能性を整理しました。

しかし、いくつかの問いが残ります。

  • どの段階で偏りは硬直に転じるのでしょうか。
  • 硬直を自覚する契機はどのように生まれるのでしょうか。
  • 判断の地層はどのように再編されるのでしょうか。

これらは今後の検討課題です。

次回は、成功体験とバイアスの関係を手がかりに、判断の地層はどのように再編されるのかについてさらに検討します。

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