TSUYOMI研究コラム 37
1.問いの提示
ダイナミック・ケイパビリティとTSUYOMIの差異を通じて、TSUYOMI概念を精緻化することを目的としています。
前回までに、能力の反復が判断の偏りを強化し、硬直を生む可能性を整理しました。
本稿では、次の問いを検討します。
判断の地層は、どのような契機によって再編されるのでしょうか。
能力が発動され続けることで構造が固定化するのであれば、その固定化はどのように揺らぐのでしょうか。
2.通説の整理
ダイナミック・ケイパビリティ論では、再編は主として環境変化への対応として理解されます。
市場の変化、技術革新、競争環境の変動などが契機となり、企業は資源を再構成します。
この枠組みにおいては、再編は外部環境への適応として説明されます。
環境が変われば、能力を再配置する必要が生じます。
再編の契機は、外部から与えられるものとして整理されます。
この説明は、行為水準においては一定の妥当性を持ちます。
3.TSUYOMIからの再定義
TSUYOMIは、現時点では判断生成構造として整理しています。
この視点から見ると、再編の契機は必ずしも外部環境そのものではありません。
同じ環境変化に直面しても、再編を選択する企業と、従来の枠組みを維持する企業があります。
違いは、環境の変化そのものよりも、その変化をどのように意味づけるかにあります。
ここで重要になるのは、「違和感」です。
既存の判断の地層と現実との間にずれが生じたとき、そのずれが違和感として認識される場合があります。
この違和感が、判断の前提を揺らす契機になります。
整理すると、
- ダイナミック・ケイパビリティは、環境変化を再編の契機として扱います。
- TSUYOMIは、判断の地層と現実とのずれを契機として扱います。
再編は、外部刺激の大きさだけではなく、その刺激がどのように解釈されるかに依存します。
TSUYOMIは、この解釈の水準に注目します。
4.実務への含意
実務では、危機や業績悪化が再編の契機とされることが多くあります。
しかし、必ずしも危機的状況でなくとも、経営者が違和感を覚えたときに方向転換が行われることがあります。
SmallBizでは、経営者の感覚が組織全体の再編を左右します。
違和感が言語化されずに放置されると、判断の地層は維持されます。
違和感が共有され、問い直されるとき、再編の可能性が生まれます。
したがって、再編の契機を外部要因だけに求めるのではなく、判断構造の揺らぎとして捉えることが重要になります。
5.未解決点の提示
本稿では、再編の契機を「違和感」として整理しました。
しかし、いくつかの問いが残ります。
- 違和感はどのように生まれるのでしょうか。
- 違和感を無視する構造はどのように形成されるのでしょうか。
- 違和感を再編へと接続するプロセスはどのようなものでしょうか。
これらは今後の検討課題です。
次回は、再編のプロセスそのものに焦点を当て、判断の地層がどのように書き換えられるのかを検討します。