TSUYOMI研究コラム 30
1.問いの提示
ダイナミック・ケイパビリティとTSUYOMIの差異を通じて、TSUYOMI概念を精緻化することを目的としています。
前回は、能力概念と構造概念の水準の違いを整理しました。
本稿の問いは次のとおりです。
両理論は、そもそも何を説明対象としているのでしょうか。
説明対象の違いを明確にすることが核心となります。
2.通説の整理
ダイナミック・ケイパビリティ論は、企業が変化環境に適応するための能力を説明します。
その中心は行為です。
- 環境を感知する
- 機会を捉える
- 組織を再編する
いずれも具体的な行為の水準にあります。理論の関心は、「何ができるのか」「どのように実行できるのか」に向けられています。
能力は、結果を生み出す行為可能性として整理されます。
したがって、理論の説明対象は、企業が行う行為と、その行為を支える能力です。
3.TSUYOMIからの再定義
これに対して、TSUYOMIは、現時点では判断生成構造として整理しています。
TSUYOMIが説明しようとするのは、行為そのものではありません。
むしろ、どの行為が選ばれやすいのかという「偏り」です。
企業は常に複数の選択肢の中から判断を行います。
その際、ある方向に判断が傾く傾向が存在します。
- ある市場を機会と見なすかどうか
- あるリスクを回避すべきと判断するかどうか
- 再編を優先するか、維持を選ぶか
これらの選択には一貫した傾向が見られることがあります。
TSUYOMIは、その傾向、すなわち判断の偏りを説明しようとする概念です。
整理すると、
- ダイナミック・ケイパビリティは「行為」を説明します。
- TSUYOMIは「偏り」を説明します。
ここでの偏りは、価値判断ではありません。
判断が特定の方向に生成されやすい構造的傾向を指します。
4.実務への含意
実務においては、行為の成否が注目されがちです。
しかし、なぜその行為が選択されたのかを検討すると、背後に一定の判断傾向が存在していることが少なくありません。
再編に成功した企業があるとします。
そのとき注目されるのは再編能力ですが、そもそも再編を必要と認識した判断の偏りが前提にあります。
SmallBizでは、経営者の判断が組織全体の方向を規定します。
したがって、行為能力だけでなく、判断の偏りを理解することが重要になります。
行為を変えるためには、偏りの理解が必要になる場合があります。
5.未解決点の提示
本稿では、説明対象の違いとして「行為」と「偏り」を整理しました。
しかし、いくつかの問いが残ります。
- 偏りはどのように形成されるのでしょうか。
- 行為の反復は偏りを強化するのでしょうか。
- 偏りはどの程度変化し得るのでしょうか。
これらは今後の検討課題です。
次回は、環境を感知するという概念を手がかりに、能力と判断構造の違いをさらに具体的に検討します。