TSUYOMI研究コラム 31
1.問いの提示
ダイナミック・ケイパビリティとTSUYOMIの差異を通じて、TSUYOMI概念を精緻化することを目的としています。
前回は、ダイナミック・ケイパビリティが「行為」を、TSUYOMIが「偏り」を説明対象としている可能性を整理しました。
本稿では、ダイナミック・ケイパビリティの中核概念である「センシング」に焦点を当てます。
環境を感知する能力と、何を環境と認識するかを決める構造は、どのように異なるのでしょうか。
2.通説の整理
ダイナミック・ケイパビリティ論において、センシングとは、機会や脅威をいち早く察知する能力を指します。
市場の変化、技術の進展、顧客ニーズの変容などを把握し、将来の可能性を読み取る力が重視されます。
このとき前提となっているのは、「環境」は客観的に存在し、それをいかに正確に、迅速に感知できるかが差を生む、という理解です。
センシングは、環境情報を収集・分析し、意味づける能力として整理されます。
したがって、説明の中心は「感知できるかどうか」にあります。
3.TSUYOMIからの再定義
ここで、TSUYOMIの立場から問いを立て直します。
TSUYOMIは、現時点では判断生成構造として整理しています。
この立場に立つと、センシング以前の段階に注目する必要があります。
すなわち、「何を環境として認識するのか」という問いです。
環境は無限の情報から構成されています。
その中のどの変化を「重要」とみなすのか、どの兆候を「機会」と読むのかは、一様ではありません。
同じ情報に接しても、ある経営者は脅威と受け取り、別の経営者は機会と受け取ります。
ここに判断の偏りが存在します。
TSUYOMIは、この偏りを生み出す重力のような構造として暫定的に理解しています。
整理すると、
- センシングは、環境を感知する能力です。
- 判断重力は、何を環境と認識するかを方向づける構造です。
センシングは情報処理の能力に関わります。
判断重力は、情報をどの方向に意味づけるかという傾向に関わります。
両者は連続しているように見えますが、説明対象の水準は異なると考えられます。
4.実務への含意
実務では、「情報収集力を高める」「市場分析を強化する」といった取り組みが重視されます。
しかし、情報を収集しても、そもそも何を重要とみなすかが固定化していれば、認識は大きく変わらない可能性があります。
SmallBizでは、経営者の関心や経験が強く反映されます。
その結果、特定の市場変化には敏感でありながら、別の変化にはほとんど反応しないということが起こり得ます。
センシング能力の問題として整理することも可能ですが、判断重力の問題として見ると、より深い理解が得られる場合があります。
行為能力の向上と同時に、判断の偏りを自覚することが重要になると考えられます。
5.未解決点の提示
本稿では、センシングと判断重力の違いを、説明対象の水準の違いとして整理しました。
しかし、いくつかの問いが残ります。
- 判断重力はどのように形成されるのでしょうか。
- センシング能力の向上は、判断重力を変化させるのでしょうか。
- 判断重力は意識的に調整できるのでしょうか。
これらは今後の検討課題です。
次回は、機会を捉えるという概念を手がかりに、シージングと決断構造の違いを検討します。