TSUYOMI研究コラム 32
1.問いの提示
ダイナミック・ケイパビリティとTSUYOMIの差異を通じて、TSUYOMI概念を精緻化することを目的としています。
前回は、センシングと判断重力の違いを整理しました。本稿では、ダイナミック・ケイパビリティの第二の機能である「シージング」に焦点を当てます。
機会を掴む能力と、何を機会と見なすかを決める構造は、どのように異なるのでしょうか。
この問いを通じて、行為能力と決断構造の違いを検討します。
2.通説の整理
ダイナミック・ケイパビリティ論において、シージングとは、感知した機会に対して迅速かつ適切に資源を投入する能力を指します。
新規事業への参入、技術投資、組織再編など、具体的な決断と実行が含まれます。
ここで重視されるのは、
- 意思決定の速度
- 資源配分の的確さ
- 組織を動かす実行力
です。
理論の関心は、「機会を逃さないこと」「適切に掴むこと」にあります。
したがって、シージングは行為の実行可能性を中心に整理されます。
3.TSUYOMIからの再定義
TSUYOMIは、現時点では判断生成構造として整理しています。
この視点から見ると、シージング以前に検討すべき段階があります。
それは、「何を機会と見なすのか」という判断の偏りです。
市場には無数の変化が存在します。
しかし、それらすべてが機会として認識されるわけではありません。
ある経営者は価格競争を脅威と受け取ります。
別の経営者は同じ状況を新たなポジショニングの機会と受け取ります。
ここには、決断以前の構造的傾向が存在していると考えられます。
整理すると、
- シージングは、機会を掴む能力です。
- 決断構造は、何を機会と認識するかを方向づける偏りです。
シージングは実行の水準にあります。
決断構造は、その実行が選択される前提にあります。
TSUYOMIは、この前提部分に焦点を当てます。
4.実務への含意
実務では、「決断が遅い」「実行力が弱い」といった評価がなされることがあります。
しかし、その前段階で、そもそも機会として認識していない可能性もあります。
SmallBizでは、経営者の経験や価値観が、機会の定義そのものに影響を与えます。
能力を強化することは重要ですが、決断構造が固定化していれば、能力は特定の方向にしか発動されません。
したがって、実務においては、行為能力の向上と同時に、決断構造の偏りを検討することが必要になると考えられます。
5.未解決点の提示
本稿では、シージングと決断構造の違いを、行為水準と前提水準の違いとして整理しました。
しかし、次の問いが残ります。
- 決断構造は経験の蓄積によってどのように変化するのでしょうか。
- シージング能力の成功は、決断構造を強化するのでしょうか。
- 決断構造は意識的に再編できるのでしょうか。
これらは今後の検討課題です。
次回は、組織を再編するという概念を手がかりに、トランスフォーミングと構造再編の違いを検討します。