TSUYOMI研究コラム 02
1.問いの提示
TSUYOMIは観測可能なのでしょうか。
前回の整理では、TSUYOMIを強みそのものではなく、強みを生み出す構造であると位置づけました。しかし、構造であるとするならば、それはどのように捉えることができるのかという問題が生じます。
財務指標のように測定できるのでしょうか。
能力評価のように棚卸しできるのでしょうか。
それとも、直接には扱えない概念なのでしょうか。
TSUYOMIを研究対象とする以上、その観測可能性について一定の整理が必要になります。
2.通説の整理
経営理論において、多くの概念は何らかの形で観測可能性と結びついています。
たとえば、ティースのダイナミック・ケイパビリティは、環境変化に対応する企業能力を論じています。この能力そのものは直接測定できない場合もありますが、組織プロセスや成果指標を通じて推定されます。
また、野中郁次郎のSECIモデルは、知識創造のプロセスを示していますが、その議論は具体的な行動や制度設計と結びついています。
さらに、アージリスとショーンが論じたダブルループ学習も、組織内の対話や意思決定の変化を通じて確認されます。
このように、理論的概念は、直接観測できない場合であっても、何らかの行動や成果を媒介として把握されるのが一般的です。
では、TSUYOMIは同様に扱うことができるのでしょうか。
3.TSUYOMIからの再定義
TSUYOMIは、直接観測可能な変数ではないと考えます。
しかし、観測できないということは、扱えないということを意味しません。
TSUYOMIは、判断の系列を通じて間接的に推定される構造であると暫定的に定義できます。
単発の意思決定は、状況に応じた偶発的な選択に見えることがあります。しかし、一定期間にわたる意思決定を並べてみると、そこに一貫した傾向が現れる場合があります。
- なぜ同じ種類の顧客を選ぶのか。
- なぜ一定水準のリスクを許容するのか。
- なぜ拡大よりも安定を優先するのか。
こうした判断の反復の背後には、判断を方向づける前提が存在している可能性があります。
TSUYOMIは単発の行為からは観測できませんが、判断の系列からは推定できます。したがって、TSUYOMIは「直接観測可能な対象」ではなく、「判断の反復から推論される構造」として位置づけるのが適切であると考えます。
4.実務への含意
この理解は、診断や実務への応用方法に影響します。
TSUYOMIを単発のアンケートや自己評価で測定しようとすることには限界があります。むしろ、一定期間にわたる意思決定の履歴を整理することが有効です。
具体的には、過去の主要な意思決定を時系列で記述し、その判断理由を可能な限り言語化します。その上で、複数の判断に共通する前提や価値基準を抽出していきます。
ここで重要なのは、判断の正否を評価することではありません。判断の傾向を把握することです。
TSUYOMIは評価の対象ではなく、理解の対象です。観測とは数値化を意味するのではなく、構造を推定する営みであると整理できます。
5.未解決点の提示
もっとも、この方法にも課題があります。
判断の系列から構造を推定する場合、その解釈はどの程度主観に依存するのでしょうか。複数の解釈が可能な場合、妥当性はどのように確保されるのでしょうか。
さらに、TSUYOMIは時間とともに変化するのか、それとも比較的安定した構造なのかという問題も残ります。
観測可能性を検討することは、同時に変化可能性を問うことでもあります。
次回は、「TSUYOMIは変化するのか」という問いを取り上げ、構造としてのTSUYOMIの安定性と可変性について検討します。