TSUYOMI研究コラム 41

1. 問いの提示

「強みを活用しましょう。あなたの強みは何だと思いますか?」

このような問いかけに対して、戸惑いの表情を浮かべる経営者が少なくありません。経営者が自らの資質に向き合う際、なぜ「強み(Strength)」という言葉が、時としてこのような自己防衛的な反応を引き起こしてしまうのでしょうか。

自己変革が求められる局面において、自身の特性をポジティブな文脈だけで捉えようとすることが、かえって客観的な自己認識を妨げているのではないかという問いが生じます。

2. 通説の整理

もう40年近く前になりますが、船井総研創業者の船井幸雄先生のセミナーに足繁く通っていました。船井先生は、口癖のように「長所伸展」とおっしゃっていました。また、「短所は直らない。強みを伸ばして、弱みを包み込め」という「包み込み」戦略もよく耳にしました。

このような指導は、コーチングやマネジメントの文脈では「ストレングス・ベースド・アプローチ(強みに立脚した手法)」といわれています。個人の欠点に注目するよりも、優れた点を見出し伸ばす方が生産的であるという考え方に基づいたものです。

しかし、この手法は個人のエンゲージメントを高める一方で、業績が停滞している経営者にとっては、「今の自分には語るべき強みがない」という自己否定感を強めてしまう側面も指摘されています。

確かに、停滞期を迎えている経営者ほど、「当社には強みと呼べるものはありません」と弱々しく回答される印象があります。

3. TSUYOMIからの再定義

TSUYOMI研究室では、個人の特性を「強み・弱み」という二元論から切り離し、中立的な「偏り(個体特性)」として再定義します。これは、特定の事象に対して無意識に生じる反応の「癖」や「認知のプリズム」を観測するアプローチです。 特性を「良い・悪い」という評価から解放し、単なる「観測データ」として扱うことで、現在の業績の良し悪しに関わらず、経営者は自身のOSを客観的に眺めることが可能になると考えられます。

4. 実務への含意

この中立的なアプローチを実務に取り入れることは、経営者の心理的安全性を確保する上で有効な手段となり得ます。

「強みを探しましょう」という評価を伴う問いかけではなく、「判断の偏りを観測しましょう」という中立的な提案を行うことで、経営者は防御に回ることなく、自身の意思決定のメカニズムを冷静に分析できるためです。 このような客観視は、現在の経営課題と自身の特性との間に生じている「噛み合わせ」を、感情を排して修正するための基盤を提供すると推察されます。

5. 未解決点の提示

ただし、全ての評価を排した「純粋に中立的な観測」が、個人の行動変容に対して十分な動機付けとなり得るのかについては、さらなる検証が必要です。また、特性を中立的に捉えた後、それをどのように戦略的な意思決定へと接続させるべきか、その具体的なプロセスについても、引き続き研究室での検討課題といたします。

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