TSUYOMI研究コラム 05
1.問いの提示
判断が揺らぐとき、TSUYOMIはどのように理解すべきでしょうか。
前回、TSUYOMIは判断の方向性を内側から規定する構造であり、その結果として一貫性が現れると整理しました。しかし、実際の経営においては、判断が常に一貫しているとは限りません。方針が変わることもあれば、過去の選択と矛盾するように見える意思決定が行われることもあります。
このような揺らぎは、TSUYOMIが弱まっていることを意味するのでしょうか。それとも、別の理解が可能なのでしょうか。
2.通説の整理
一般に、判断の揺らぎは否定的に捉えられることが少なくありません。戦略の不安定さや方針の不一致は、組織の未成熟や統制の不足として説明されることがあります。
一方で、環境変化への適応という観点からは、判断の変更や方向転換は必要な対応とも考えられます。ティースの議論においても、企業は状況に応じて資源や能力を再構成するとされています。
また、アージリスとショーンが示したように、前提そのものを問い直す学習は、既存の枠組みを揺さぶる契機となります。
このように、揺らぎは一概に否定されるべきものではありません。ただし、どの揺らぎが適応であり、どの揺らぎが迷走なのかを区別することは容易ではありません。
3.TSUYOMIからの再定義
TSUYOMIの観点から見ると、判断の揺らぎは直ちに構造の崩壊を意味するものではありません。
TSUYOMIは単一の行為ではなく、判断の系列から推定される構造です。したがって、個別の意思決定が過去と異なる方向を向いたとしても、それだけでTSUYOMIが消失したとは言えません。
重要なのは、揺らぎがどの水準で生じているかです。
表層的な手段の変更なのか、判断を方向づけてきた前提そのものの見直しなのかによって、意味は異なります。前者であれば、構造は維持されたまま手段が調整されている可能性があります。後者であれば、TSUYOMI自体が再編されつつあると理解できます。
したがって、揺らぎはTSUYOMIの否定ではなく、構造の可視化の契機となる場合があります。揺らぎが生じたときこそ、これまで暗黙であった前提が意識化されるからです。
4.実務への含意
実務においては、判断の揺らぎを直ちに排除すべき対象とするのではなく、その性質を見極めることが重要です。
具体的には、次のような問いが有効です。
- 今回の判断変更は、手段の調整にとどまっているのか。
- それとも、これまで前提としてきた価値基準や優先順位を見直しているのか。
- 揺らぎは一時的な迷いなのか、長期的な再構成の兆しなのか。
判断の揺らぎを記録し、振り返ることは、TSUYOMIの変化過程を理解する手がかりになります。
TSUYOMIは固定的な本質ではありませんが、無秩序に変化するものでもありません。揺らぎを通じて、その構造がどの水準で再編されているのかを検討することが求められます。
5.未解決点の提示
もっとも、揺らぎが再編の兆しである場合、その再編はどのような条件で安定するのでしょうか。
新たな判断の方向性が定着するためには、どのような経験や対話が必要なのでしょうか。また、揺らぎが長期化した場合、それは構造の成熟過程といえるのか、それとも不安定化とみなすべきなのか。
TSUYOMIと揺らぎの関係をさらに明確にするためには、「安定化の条件」を検討する必要があります。
次回は、TSUYOMIと安定化の条件について整理します。