TSUYOMI研究コラム 25
1.問いの提示
経営において「改善(カイゼン)」は、組織の効率を高め、無駄を削ぎ落とすための絶対的な善であると考えられています。しかし、どれほど改善を積み重ねても、事業の行き詰まりを打破できなかったり、新しい競合の出現に太刀打ちできなかったりするのはなぜでしょうか。
「やり方」を洗練させ続けることが、かえって致命的な変化への適応を妨げてしまうという逆説的な現象について、その構造を検討します。
2.通説の整理
一般に、業績の低迷は「効率の低下」や「努力の不足」として捉えられます。
コストを削減し、納期を短縮し、サービスの質を向上させる。こうした「改善」は、問題解決の王道として推奨されます。既存の目標をより高い精度で達成しようとする姿勢は、組織の規律を保つ上でも極めて有効です。
しかし、これらの努力はすべて「現在のルールが正しい」という前提の上に立っています。ルールそのものが時代遅れになっている場合、改善を加速させることは、むしろ誤った方向へ進むスピードを速める結果を招きかねません。
3.TSUYOMIからの再定義
クリス・アージリスは、既存の枠組みの中でエラーを修正する営みを「シングルループ学習」と呼びました。
TSUYOMIの視点から見れば、シングルループ学習とは、積み重なった地層の表面を磨き、現在の実務OSのパフォーマンスを最大化しようとする行為です。これは安定期においては強力な武器となりますが、地層が厚くなりすぎる(TSUYOMIが固まりすぎる)と、経営者は「地層の成分そのものが今の環境に適しているか」を問うことを忘れてしまいます。
「改善」という名のシングルループに埋没することは、実務OSの仕様に疑問を持たず、メモリ不足のままアプリケーションを動かし続けようとする状態に似ています。改善が限界に達したとき、必要なのは手法の修正ではなく、地層の奥底にある「判断の前提」そのものを見直すことです。
4.実務への含意
実務において重要なのは、「改善で解決できる問題」と「前提を疑うべき問題」を峻別することです。
もし、どれほどオペレーションを磨いても違和感が拭えないのであれば、それは手法の問題ではなく、TSUYOMI(地層)というOSの設計が時代と乖離しているサインかもしれません。改善を一時停止し、自らの判断を拘束している「暗黙のルール」に目を向ける勇気が、SmallBiz経営者には求められます。
5.未解決点の提示
シングルループ学習は心理的に心地よく、達成感を得やすいため、そこから抜け出すのは容易ではありません。
経営者が、自らの「得意な土俵(既存のTSUYOMI)」での改善をあえて放棄し、不慣れな「前提の問い直し」へと踏み出すための動機付けをいかに維持すべきか。この心理的スイッチの切り替えについては、さらなる研究が必要です。