TSUYOMI研究コラム 42
1. 問いの提示
かつて成功の要因とされた経営者の資質が、環境の変化に伴い、なぜ突如として組織の成長を阻害する要因へと変質してしまうのでしょうか。この「強みの弊害」という現象を、個人の能力の劣化としてではなく、構造的なミスマッチとして捉え直す視点が求められています。
2. 通説の整理
経営学においては、過去の成功体験が学習棄却(アンラーニング)を妨げ、環境変化への対応を遅らせる「サクセス・トラップ(成功の罠)」という概念が広く知られています。ここでは、固定化された成功パターンの再生産がリスクと見なされます。しかし、経営者個人の内面的な特性そのものをどのように扱うべきかという点については、多分に精神論的な克服が期待される傾向にあります。
3. TSUYOMIからの再定義
TSUYOMI研究室では、個人の特性を、外部からの光を分光させる「プリズム」という中立的な構造として捉えます。プリズムそのものの形状(TSUYOMI)は、生涯を通じて大きく変化しない固定的なものと考えられます。
重要なのは、投影される「色(成果)」は、プリズムの形状だけでなく、そこに差し込む「光(市場環境や事業ドメイン)」との組み合わせによって決定されるという点です。かつての成功を導いた「偏り」が現在足枷となっているのであれば、それは個人の資質が変質したのではなく、差し込む光の角度が変わったことによる「色の変化」であると再定義されます。
4. 実務への含意
この再定義は、実務において、経営者が自己の資質を否定することなく戦略を修正するための論理的根拠となります。「自分を変える」という困難な課題に直面する代わりに、「不変のプリズム(TSUYOMI)」を前提とした上で、どのような「光(事業)」を当てるべきか、あるいは投影された「色」を今の環境でどう解釈し直すべきかという、操作可能な変数への注力を促します。
5. 未解決点の提示
一方で、差し込む光(環境)の制御だけで、全てのミスマッチが解消されるわけではありません。不変であるとされるプリズムの形状自体を、微細にであれ調整していくことが可能なのか、あるいはその必要性があるのかについては、ダイナミック・ケイパビリティ論との整合性を含め、検討の余地を残しています。