TSUYOMI研究コラム 22
1.問いの提示
自らの「判断の地層」を観測しようとする際、最大の問題は「自分自身のバイアスからは逃れられない」という点にあります。
鏡を見て自分の顔を確認するように、経営者が自らの判断構造を客観的に眺めることは可能なのでしょうか。また、単に「見る」だけで地層に変化は起きるのでしょうか。本稿では、TSUYOMI診断が経営者の認識にどのような作用を及ぼすのか、そのメカニズムについて検討します。
2.通説の整理
一般的な適性検査や経営診断は、対象者の現状を数値化して「評価」することを目的とします。
「あなたのリーダーシップは〇点です」「組織の生産性は平均以下です」といった結果を提示し、不足している部分を指摘する。これは「鏡」としての機能であり、現状を認識させる上では有効です。
しかし、こうした評価は「外側からの判定」に過ぎず、受診者の内側にある判断構造そのものを揺り動かす力(変革の契機)に欠けることが少なくありません。
3.TSUYOMIからの再定義
TSUYOMI診断は、評価のための「鏡」である以上に、硬直化した地層に刺激を与える「ドリル」としての機能を持ちます。
ショーンは、実践家が自らの前提を問い直すきっかけは、常に「驚き(Surprise)」や「違和感」であると述べました。診断ツールの設問が、経営者にとって「通常は意識しないが、答えに窮する問い」であったとき、そこに「行為についての省察(Reflection-on-action)」が発生します。
診断とは、現状を正しく当てるためのものではありません。設問に答える過程で、「なぜ自分はこの選択肢を即座に選べないのか」「なぜこの問いに不快感を覚えるのか」という自己対話を誘発すること。つまり、地層の奥底に意識を届かせるための「問いのドリル」として、診断ツールは機能すると考えられます。
4.実務への含意
実務における診断の活用法は、スコアの良し悪しに一喜一憂することではなく、回答時の「迷い」を記録することにあります。
迷いが生じた箇所には、既存のTSUYOMI(地層)と、新しい認識(あるいは環境変化)との衝突が起きています。その衝突こそが、地層を再編するための「入り口」です。診断ツールを「自己との対話装置」として位置づけることで、経営者は自らの地層の組成を、より能動的に、かつ生々しく捉えることが可能になります。
5.未解決点の提示
問いのドリルが深すぎれば経営者は防衛的になり、浅すぎれば地層には届きません。
経営者の心理的安全性を保ちつつ、かつ「適切な驚き」を与えるための問いの設計には、高度なバランス感覚が求められます。この「問いの深度」をどのように調整すべきかについては、診断アルゴリズムの今後の課題です。