TSUYOMI研究コラム 26
1.問いの提示
「前提を問い直す」と言葉にするのは容易ですが、それを実際に行うことは極めて困難です。なぜなら、経営の前提(ガバニング・バリアブル)とは、その経営者が長年信じ、成功を支えてきた「価値観の背骨」そのものだからです。
自らの背骨を組み替えるような、痛みを伴う「ダブルループ学習」は、SmallBizにおいてどのように実現されるのでしょうか。既存の地層(TSUYOMI)を否定することなく、新しい前提を受け入れるためのプロセスを検討します。
2.通説の整理
前提の変更は、しばしば「パラダイムシフト」や「破壊的刷新」として語られます。
古い自分を捨て、全く新しい自分に生まれ変わるという劇的な変化が強調されます。これらはスローガンとしては強力ですが、実務においては「これまでの自分は何だったのか」という強い自己否定感を生み出し、心理的な拒絶反応を引き起こす原因となります。
結果として、変革を掲げながらも、根底では過去の前提にしがみつくという「変革のフリ」に終始してしまうケースが多く見られます。
3.TSUYOMIからの再定義
アージリスの「ダブルループ学習」を、TSUYOMIという地層のメタファーで再定義すると、それは過去の地層を削り取ることではなく、「地層に新しい成分(前提)を注入し、全体の組成を変える」行為であると考えられます。
経営の前提を書き換えるとは、過去の判断を「間違い」として捨てることではありません。「あの時はあの前提(TSUYOMI)があったから成功した。しかし、これからはこの新しい前提を最下層に置く」と、地層の重なり順や結合規則を自覚的に変更することです。
これは「跳躍」というよりは、高度な「再構築(リストラクチャリング)」です。TSUYOMI診断を通じて自身のガバニング・バリアブル(統治変数)を可視化できれば、経営者は闇雲に自分を否定することなく、特定の変数(例えば「規模の拡大」から「質的充実」へなど)を意図的に調整し、新しい地層を積み重ね始めることが可能になります。
4.実務への含意
実務におけるダブルループ学習の要諦は、問いの質を変えることにあります。
「どうすれば上手くいくか」という問い(シングルループ)から、「なぜ自分は、これが上手くいかないと困ると思っているのか」という問い(ダブルループ)へ。自らのTSUYOMIを「疑い」ではなく「関心」の対象として観測すること。この静かな内省こそが、実務OSの仕様変更を可能にするエネルギーとなります。
5.未解決点の提示
ダブルループ学習によって書き換えられた新しい前提が、再び「硬直化した地層」にならないようにするためにはどうすればよいでしょうか。
常に流動性を保ちながら、かつ経営の安定を損なわないような「しなやかな地層」のあり方。この「永続的な学習」を支える仕組みの設計については、継続的な観測が必要です。