TSUYOMI研究コラム 43
1. 問いの提示
経営者が抱く「経営の苦痛」という感覚は、単なる業績の多寡に起因するものでしょうか。自らの資質と経営の実態が解離している状態を、構造的にどのように理解し、それを「楽しい」と感じられる状態へと転換し得るのか、その機序を検討します。
2. 通説の整理
ポジティブ組織心理学では、ポジティブな偏りを推奨しています。ポジティブな感情を抱いている組織は、レジリエンスが高く、結果として業績やイノベーションが促進されることが証明されているそうです。この場合、ポジティブな偏りというのは「良きもの」として推奨されます。
3. TSUYOMIからの再定義
TSUYOMI研究室では、経営の苦痛の正体を「自らの偏り(TSUYOMI)を押し殺し、平均的な正解に自己を適応させようとする摩擦」であると仮定します。 これに対し、「楽しい経営」とは、自らの偏りを矯正の対象とせず、その偏りが「ポジティブな逸脱(Positive Deviance)」として機能する特定のドメイン(土俵)を意図的に選択できている状態を指すと再定義します。特性を中立的に受け入れることは、平均への回帰を拒絶し、自身の「持ち味」が価値に転換される場所を探すための前提条件となります。
このように、TSUYOMIを価値中立的に捉えるところが、ポジティブな偏りの価値付加的な捉え方と大きく異なる観点です。
4. 実務への含意
実務上の示唆として、経営者の役割は「自己の修正」から「環境の選定」へと移行します。自らのTSUYOMIが、今の市場や組織において価値を毀損しているならば、無理に性格を変えるのではなく、その特性がレバレッジとして機能するような事業構造の再設計や、権限移譲の仕組みを構築することが推奨されます。この「自己とドメインの適合」が成立したとき、経営は苦行から、自身の特性を存分に発揮する探求へと変容すると考えられます。
5. 未解決点の提示
しかしながら、「楽しい」という主観的な充足感が、必ずしも企業の持続的な経済合理性と一致するとは限りません。経営者の主観的幸福と、組織としての客観的な成果をいかにして高い次元で統合させるかについては、今後の重要な研究テーマとして残されています。